「モリ・・・、本当にありがとね」



「別に、オレももうすぐいなくなるしな」


モリは来月、本格的に音楽活動をする為に上京する事が決まっていた。


ヒロとの約束を守るためにモリは頑張っている。


モリもあたしもお互いの中に「ヒロ」を見ていた。

それは愛でも恋でもなくて、ずっと出せなかった気持ち。ヒロへの思い。
ただそれだけだ。

何かの縁だとしたら、それは「ヒロの死を理解する事」。それだと思う。


モリは上京して前を進む。

あたしは大事な恋人がいて、いつか一緒になりたいと思っている。


モリはヒロとの約束を守らなければいけない。
それを影で「頑張れ」と祈るのがあたしとヒロの役目だと思う。

あたしが仏壇の前に置いた手紙には、その事が書いてある。

『モリがヒロとの約束を守って、プロになりますように。ヒロもしっかり応援しなさいよ!!』




モリが上京する2週間くらい前、あたしは再び故郷へ戻った。

モリの故郷の最後の仕事。

それは弾き語りの仕事だった。

「ハミングバードで弾いてほしい」

あたしが言ったもんだから、モリは自分のアコギではなく、どっかからわざわざハミングバードを借りてきてくれた。

あたしはハミングバードが大好きだ。
可愛い小鳥の絵。そして澄んだキレイな音。

弾き語りでモリはあたしの為に1曲歌ってくれるという。

静かな会場でモリは言った。


「好きな人へ送ります」


曲は、あたしが大好きなバラード。


モリとのお別れの曲。
聴いてる間、涙が止まらなかった。

ありがとう・・・。心からモリに感謝した。

あたしの心の痛みを、苦しくて辛かった、忘れてしまいたい思いを優しい思い出に変えてくれてありがとう。