ヒロが死んでから、あたしは故郷が大嫌いになった。
二度と帰りたいとは思わなかった。


あたしの育った街は海に囲まれた街。
それが、街自体をがんじがらめにしているように思えてた。



これ以外にも大嫌いになったものがあった。

それは、今は女優として活躍している人の名曲。


嫌いというより聴くのが怖い。

ヒロが大好きだった曲だったから。



中学の頃、ヒロの部屋でこのCDを発見してあたしは笑った。

「バンドやってます。ベースですって、この曲好きなのに?」

ヒロは真っ赤な顔をして「うるせぇ!!」と怒った。

あたしもこの曲が好きだったから「CDちょうだい」と言った。

ヒロは「絶対にやらねーよ。この人好きなんだよ」と怒りながら言った。

あたしがこの曲を歌うと「歌うなよ!曲が腐るだろ!」と譜面で頭を叩かれた。




この時ちょうどR&Bアーティストがこの曲をカバーをして話題になっていた。

CMでそれがかかるとあたしはイヤだと思って耳を塞いだ。


「うらら?どうした?」

恋人があたしが耳を塞いでテレビから目を背けている様子を見て心配してた。
彼にはあたしの色んな出来事をある程度は話しているから大丈夫なんだけど・・・

「ダメなの。この曲はあたしダメなんだよ」

泣きながらあたしは恋人に言った。



だって思い出す。

CDを見ながらヒロと笑った楽しい時間を。

だから怖い。

あたしは全然立ち直っていなかったし、理解しようともしていなかったから。