JRを降りて、あたしは深呼吸した。

海に囲まれたあたし故郷は何となく磯の香りがする。風も潮風みたい。

故郷に帰ってくるのはヒロのお葬式以来。
乗車中にワゴン販売が通って、一瞬ビールを買おうと思ったけど、あの時の涙をボロボロ流しながら飲んだビールを思い出してやめた。

駅にモリが迎えに来てくれていた。

車に乗り込むと「とりあえず荷物置いて来ないか?」とモリが言った。
モリもあたしがいる間、仕事を休んでくれるみたいだ。
2泊3日のあたしの帰郷。

「え?どこに?」

「オレの家。今日はユキも泊まりにくるから」

ユキは随分前に結婚をしていて、子供が2人いる。
そんな家に泊まるのもあたしが可哀相だと思ったみたいで、代わりにユキが2日共、夜に泊まりにきてくれるように既に話がすんでいるみたいだった。


あたしが着いたのが夕方だったから、ユキはそんなに時間がかからいで来てくれた。

ユキが来るちょっと前、モリの家に入った時、あの怖い思いをした事を思い出した。
今はモリの家族は他へ引っ越して1人で住んでるみたいだ。

「あそこさ」

あたしはモリの部屋の一番奥の窓側を指差した。
今はベッドじゃなくて、パソコンが置かれている。

「あそこにベッドあったでしょ?あそこでギター抱えてたモリにすっごい冷たい目で見られたんだよね」

「は?お前、ウチに来たことあんの?」

モリはビックリしてる。

「あるよ。若葉につれてこられた。モリ、すっごい怖かったもん」

「オレ、女には優しいはずだけどなー」

モリは首を傾げている。

「ヒロもそう言ってたけど、ウソだね。めっちゃ睨まれた」

「お前、誰かと間違ってんじゃねーのか?」

「この家に来たのにどうやって間違うの?」

あたしは笑った。

「若葉っていえばさ」

モリは思い出したように言った。

「東京にいたんだけど、理由があって戻ってくるみたいだぞ」

「あ、そうなの?」

「何か内々にって感じだから、色々あるんじゃね?」

あたしはため息をついた。

「もっと大人になれよな、って事だよね」