私が尋ねるより先に、小浜は話し出す。

「涼子とは帰りがたまに同じ電車でね。僕たちは、いつも同じ車両の同じ席に立つから、自然に顔見知りになったんだ。涼子は僕の行っている大学へ進学を希望しているから、いつも最寄の駅で乗ってくる僕に興味をもってたんだろうね、それで話をしだしたのがきっかけなんだ」

「へぇ・・・」

「はじめてお茶をした時、涼子に頼まれたんだ。『涼子』と呼び捨てで呼んでほしい、と」

 思い出すかのように、宙を見ながら小浜は話した。

「なんで呼び捨てなんだろう」
疑問をそのまま口にしてみると、小浜は、
「そう、僕も同じ事を尋ねたんだ、そうすると彼女は急に悲しそうな顔になって言ったんだ、『私には父親がいない、だから呼び捨てで呼んでくれる人がいないから』って。それからだよ、僕が呼び捨てで呼ぶようになったのは。でも、付き合ってるとかじゃなく、彼女にとってはあくまでお兄さんのような存在だったのかも・・・」
首をふりながら悲しそうに言った。