ドラマやコントなどではよく見るこの光景。

 悲鳴を上げて軽快なリズムの音楽が鳴り響くシーンだが、いざ現実に起きてしまうと人はまったく違った行動をとる。

 それは、2人して時間が止まるのだ。

 私は何が起こったのか分からずに固まり、小浜も驚いた表情のまま動かない。

 顔面からコーヒーがこぼれ落ち、てのひらに冷たい感触が触れて、ようやく私は椅子ごと後ろにのけぞった。

「うわ!ごめん!!!」
店内に響き渡る大声で小浜が慌てふためくものだから、周りのお客さんたちもこちらを見て、そして事情を察したのかクスクス笑い出す。

 両手で思わず顔を拭くと、それまで感じなかったコーヒーのにおいが強烈に香ってくる。席においてあったナプキンで小浜が顔を拭いてくるが、あせっているので力が強い。

「ちょ、痛い・・・痛いって」
私は、小浜の手からナプキンを奪い取ると、自分でふき取る。

「どうしよう・・・ごめん~」
小浜があまりにも慌てているので、私は逆に冷静になり、
「大丈夫、ちょっと顔洗ってくる」
と言い残し、洗面所へ行った。