んー、なるほど。
そうだよね、もうすぐ会えなくなるなら悩んじゃうよね。
私なら告白しちゃうな。
うん、したほうがいいよ。
だって告白しなきゃ、思いを伝えないままその恋は死んでしまうわけっしょ?
だったら告白すべきじゃない?
ただひとつ注意するなら、もしも断られてもさ、それと受験とは別だからね。
当然フラれたら落ち込んじゃうわけだけどさ、それを理由に何も手に付かなくなって勉強すらできなくなるんじゃ彼がかわいそうだよ。
好きになったこと自体が間違いだった、なんて悲しいじゃん。
だから、ちゃんと区切りをつけたら、どんな結果だったとしても先へ進むこと。
いい?
じゃ、「うさりんご」さんに贈る曲をかけます。
アルバム「swallow」から「メールじゃなくてよかった」です』
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「メールじゃなくてよかった」
【作詞・作曲 AOI】
最後の言葉を ありがとう
言いにくい言葉を きちんと言ってくれて
ありがとう
もしも、メールなら
もしも、留守電だったなら
あなたの いいところばかりを思い出し
きっと前に進めなかった
あなたの いいところばかりを希望に
もしかして、を待ちつづけていた
だから、
最後の言葉を ありがとう
【4】
青い空を染める黒
「昨日のFM聴いた?」
朝会うなり、涼子が尋ねてきた。
いつもと同じホーム、いつもと同じ朝。
「うん。いつものように恋愛コーナーだけ聴いてから寝たよ」
吐く息が白く、生まれたそばから宙にとけてゆく。
涼子とは月曜日から土曜日までやっているFMの恋愛コーナーについてよく話す。2人ともDJアオイが好きで、その中でも特に恋愛コーナーはお気に入りだ。アオイのアドバイスについて、あーでもないこーでもないとお互いの意見を言うのが恒例だ。
「中学生のときってああいうかんじよね。なんかなつかしくなっちゃった」
涼子が寒そうに肩をすぼめながら言った。
「私なんだか分かるなー、あの気持ち」
「へー、そうなんだ?」
「うん」私は深くうなずくと、
「だって、井上先生とも春にはお別れでしょ。やっぱコクっちゃったほうがいいような気がしてるもん」
と神妙な顔をしてみせた。
涼子はそんな私を笑うようなことをせず、
「でも、もしフラれたら会いにくくならない?」
と尋ねてきた。
「そりゃそうだよ。でも、同窓会とかくらいっしょ、困るのは。だったらコクったほうが良くない?」
「そうだね。・・・カナちゃんは、本当に井上先生が好きなんだね」
そう言う涼子の顔が、なぜかさみしそうに見えたのは気のせいだろうか。
昨日の小浜幸広のことを聞きだそうと口を開きかけた時に、電車のアナウンスが流れた。ほどなく、甲高いブレーキ音をたてて電車がやってきた。
いつもの場所に立ち、改めて涼子に視線を向けると、
「カナちゃん、小浜さんって昨日紹介したでしょ?」
と、涼子の方から口を開いてくれた。
「うん。涼子さんの恋人なの?」
野球で言うならば、ストレートど真ん中なボールを投げる。
涼子は一瞬微笑んだが、すぐに真顔になり、黙ったまま視線を窓の外に向けた。どうして良いのか分からずに、私もつられて外を見る。曇った窓越しに、同じように曇った空と町並みが流れてゆく。
「分からないの」
まるでつぶやくように涼子が言った。
「え?」
「・・・分からないの」
もう一度涼子が繰り返した。
「分からないって、それってどういうこと?付き合ってるんじゃないの?」
「うーん・・・何て言っていいのかも分からないや。カナちゃん、人を好きになるってどういうことだと思う?」
「へ、なにそれ?」
頭の中で黄色い点滅信号が光っている。はぐらかされた質問を問い詰めるべきなのか、それとも答えるべきなのか。
それ以上何も言わない涼子を見て、後者を選択することにした。
「人を好きになるって、その人と一緒にいつもいたいって思うこと・・・かな?」
われながらありきたりの答えに笑いそうになったが、涼子は視線を外へ向けたまま、
「そっか、うん、そうかもね」
と言った。
今日の涼子はなんだか変だ。
私の困惑に気づいたのか、涼子は
「はは、つまらない話しちゃってごめんね。さぁて、明日から期末テストだから勉強しなきゃ」
と、まるで話を打ち切りたいかのようにあわてて教科書をとりだして眺めだした。
その日、涼子は結局最後の「じゃあ、また」と言うまで教科書から目を離すことはなかった。
おそらく小浜とケンカでもしたのだろう、と軽く考え、私も学校へと歩き出した。そして、教室につくころにはそんなことも忘れてしまっていた。
それは終礼の時に起こった。
いつものように最後の授業が終わると、井上が終礼をする。終礼といっても、連絡事項を伝えるくらいのものだが、その日の内容はいつもとはかなり変わっていた。
井上が教壇に立ち、教室内をぐるっと見回す。
授業が終わったということで、教室内にはホッとした雰囲気とともにクラスメイトの雑談が響いている。
カララララ
音をたてて教室のドアが開く。誰かトイレでも行ってたのかな、と入り口をみた私は違和感を感じて目を見張った。
音楽の先生の岩崎が、頭を下げて教室に入ってきたからだ。
とたんに嗅いでもいない香水の臭いがしたような気がして、眉をひそめる。
岩崎は、そのまま井上の横にくると並んで立ち、同じように教室を見渡した。
「用事があるならさっさと伝えて出て行けばいいのに」
隣の優斗に耳打ちする。
「おまえ、ほんと分かりやすいな」
そう言う優斗をにらみつけながらも、胸の中にいやな予感が広がっているのを感じた。これは、なにかが起こるのかも・・・。
「えー」
井上が、いつもよりも大きな声で話し出すと、それまでざわついていた教室内が一瞬シーンと静まりかえった。中には、「あれ、岩崎先生がいる」と今気づいた人もいるようで、コソコソ話している声が聞こえる。
「今日は、私からみなさんにお知らせがあります」
胸に広がったいやな予感は現実になろうとしている。
「実は、わたくしごとなんですが」
目線を机の上で組んだ指先に落とす。聞いてられない。
「このたび、岩崎先生と結婚することになりました」
ゲームオーバー。