恵美はとたんに安心した顔になり、
「でしょー。これはね、小麦粉を入れるのがコツなのよ」
とあごを上げて自慢している。

 ・・・いやいや、それは片栗粉だってば。


 母がスーツから部屋着に着替えに行くのと入れ違いに父が帰宅。遅くに生まれた私がかわいくて仕方ないのが手に取るように分かるほどの笑顔で、
「ただいま!」
と勢いよく私の頭をなでまわす。

「ちょっと、やめてよ!髪がぐちゃぐちゃになっちゃうじゃん」

 すると父は、とたんにこの世の終わりのような顔になり、
「そっか・・・いやなのか・・・」
としょげかえる。さっきまでラジオ体操でもしそうな勢いだったのに、一瞬で死神でも背負っているのかと思うほどの変わりようだ。

「いやじゃないって。ビックリしただけ、ね」
あわててフォローすると、再び満面の笑顔で、
「そっかそっか。いやーいいにおいだな。お、鍋か?」
と、恵美に尋ねている。


 末っ子もラクじゃないよなぁ。