冷たい風とともに、車内の人が入れ替わる。無理矢理割り込んで窓側に来るおばさんをやり過ごし、涼子に目を向けた時、私は目を見開いた。

 涼子が、この駅から乗ってきた男性と楽しそうに笑顔で話していたのだ。


 男性はセーターにジーンズという格好で、大学生のように見えた。顔は・・・まぁ良い男といえるだろう。

 隠れる必要もないのに、私は車内の人に隠れようと後ずさりをした。


「痛い!」
さっきやり過ごしたおばさんが高い声を上げた。
どうやら靴を踏んでしまったようだ。

「あ、すみません」
しまった、気づかれたか?

 おばさんに謝り、あわてて涼子に視線を戻すと、その目が私を認識しているのが分かった。へへ~と笑って、手を振ると涼子が隣の男性に何か言ってから二人して私の方へ移動してきた。


「カナちゃん、一緒だったんだね」
涼子がいつもの笑顔で私に言った。

「あ、そうだったみたいですねー」
ちょっとわざとらしいか?

 しかし、涼子はそんな私の気持ちに気づいた様子もなく、
「偶然だね。めったにないのにね」
と言った。