アナウンスの声に我に返り、ホームに風が踊り電車がすべりこんでくる。

 夕方の通勤ラッシュ間近の電車は、若干混んでいるくらいで席には座れないものの、ドア付近に立つことができる。軽い揺れのあと電車が動き出すと、自然に目が車内へと向く。

「大人になるってどういうことだろう」

 昼休みの会話がまた思い出される。

 車内には、携帯をじっと見ている大学生風の男の子や、うつらうつらしている頭の薄い中年男性、化粧を直している水商売っぽい女性など、様々な人がいる。誰もが不機嫌に見え、そして誰もが疲れているようにも見えた。


「あ・・・」
思わず声がでた。

 連結部分近くに涼子の姿が見えたからだ。高校生の方が授業が長いので、一緒の電車になったことはほとんどない。同じ電車に乗っていたんだ、と思うとうれしくなる。

 涼子のそばに行って話しかけようとした時に、電車は次の駅についたようで、再び軽い揺れとともに扉が開いた。