「母がね、こわれてゆくのを見たくなかった。それだけなの。現実逃避してたんだろうね。理解しようとしたけど、ついに赤いランプがついちゃって、気が付けば家を飛び出してた」

「そうなんですか・・・」

「でも」
 急に涼子が真剣な顔つきになる。
「私が間違えてた、と今なら分かる。だって、私だって優斗を見捨てたようなものだもの」

「そんな」
 そう言いかける私に、涼子は片手でパーをつくって私の発言を止めた。

「悲しいかな、これが現実。自分が許容量イッパイになってしまって、逃げ出したのは事実。だから、みんなが来てくれただけで、私は救われたの。こんなに幸せなことはないよね」

 涼子はまっすぐな目で見つめてくる。美しい、と思う。

「私、詳しいことはよく分かりません。でも、涼子さんが失踪して、そしてこうして札幌に来られて本当に良かったって思います。すべてはそうなるように決められていた、って感じるくらい大きな意味があったと思う」