「カナちゃん、私のことを言ってるの・・・?」

「だって・・・だって・・・。涼子さん逃げたじゃないですか。信じていた人に裏切られて、誰も信用できなくなって。ごめんなさい、私、この前・・・見て・・・見ちゃって・・・」

 その後は言葉にならない。言うべきではないのだ、と分かっていても、秘密を抱える苦しさから私だって逃げようとしている。


 最低なのは私だ。

 
 そう思うと、くやしくて涙が止まらない。

「そう・・・知ってるんだね」

「優斗は・・・優斗は知りません。私がたまたま見ちゃっただけなんです・・・ごめんなさい。ごめんなさい」

 次の瞬間、ふわりと身体があたたかい空気につつまれたかと思うと、私は涼子に抱きしめられていた。それは、強くもなく弱くもなく、やさしさで包まれているような感覚だった。

「ありがとう、カナちゃんがそう思ってくれただけでじゅうぶんだよ。ありがとう」

 その声は震えていた。目を閉じて私はその胸で思いっきり泣いた。