音楽の授業で唯一マシなのは、合唱の練習だ。

 といっても一生懸命歌うのではなく、クラスメイトの奏でるハーモニーを聴くのだけは楽しく感じられる。

 けして上手ではないし大抵大きくハズす人がいたりするけれど、それでも、不器用なその集団の声を目を閉じて聴くのだけは不思議と心がやすまるような気がした。

 岩崎が弾くピアノだけの演奏と一体となるたくさんの声に、まるで広い海に一人でただよっているような気分になる。


「はい、よくできました。あと、ハモる部分だけどAパートはもう少し自信をもって声をだしてね。Bパートは、音がつられないように気をつけて」

 岩崎の甘ったるい声に我にかえる。