「お客さん、ラッキーですよ。今日は珍しくあったかくて、観光にはうってつけですよ」

 初老の運転手が愛想良くそれに答えた。

「雪でもいいのにな」
菜穂が窓から空をのぞきこむようにしてつぶやく。

「いえいえ、雪に幻想的なイメージを持っちゃいけません。大変ですよ雪なんて降ったら。慣れてない観光客が毎年すっころんで怪我しちゃうんですよ」

「へぇ。怪我しちゃうんですか?」
眉をひそめた小浜が尋ねる。

「雪ってのはですね、こういう寒い地域だとあっという間に降り積もって、そして凍るんですよ。凍った雪なんて、すべるし固いしある意味凶器ですよ」

 運転手はなぜか自慢げに話す。よく見ると、道の端には溶けていない雪が黒く固まっている。確かに寒いと凍って危険だろう。


 大通りから1本右に入ったところに、私たちが泊まるホテルが現れた。道沿いに送迎レーンがあり、ビジネスホテルに毛の生えたような作りだった。