「何言ってるんですか?」

「他の男性と遊んでいる私を笑ってるんでしょ!」

「笑ってなんかいませんよ。腕、はなしてください」

「私だって・・・私だって分かってるわよ!これがダメなことだって分かってるわよ」

 その時、私は気づいた。彼女は怒っているんじゃない、涙をガマンしているのだと。声が震えて、今にも涙がこぼれそうになっている。

「優斗がかわいそう」
余計なこと言っちゃだめだ、って分かってるのに気づいた時にはそう言っていた。優斗の名前を聞いたとたん、ハッとしたような顔をした彼女の腕から力が抜けた。

 そして、そのまま優斗の母親は、その場にくずれるように座り込んだ。

「優斗・・・そう、優斗がかわいそう。でも・・・でも、私だって私だってかわいそうなのよ!」
 そう言うと、彼女は顔を伏せて泣き出した。