「ちょ、優斗。いつも言ってるでしょ、ちゃんと汗ふいてからきなって」

「しょーがねーじゃん。朝練いつもより長くなって、あわてて走ってきたんだし」
 
 優斗は陸上部に所属している。本来なら誰よりも早く登校しているはずだが、直接部室に行ってしまうので、教室に来るのは最後のほうだ。

「で、タイムは伸びたの?」
 隣の席に腰掛けた優斗に尋ねる。

 優斗は、大きく伸びをしながら
「うーん。なかなか伸びないんだよな。ま、朝だから身体も動きにくいし、また放課後チャレンジしてみるべ」
と、言った。


「そういえば、涼子さんもうすぐ期末テストだって。電車で勉強してたよ」

 そう言いながら優斗を見ると、伸びをした姿勢のまま鼻をほじっていた。

「おい、鼻ほじんな!」

「なんだよ、お前は俺のお母さんかよ」

鼻くそを飛ばすマネをする優斗の頭をはたくと、私は
「ほんっと、涼子さんと同じ血が流れているとは思えない」
と、ため息をついてみせた。