ようやくいつもの笑顔が見えてほっとした。それに、私じゃなくて良かった~。

「あのね、机の上に置いてある教科書はダミーなの。ほんとは、カナが来るまではずーっと校庭を見てるの」

「校庭・・・?校庭なんか見たって、部活の朝練くらいしか・・・」
そう言いかけてハッと気づく。

「そう、陸上部の朝練を見るために早く行ってるの」

「・・・優斗?」

 まさかと思うが、その言葉を出したとたんに菜穂はまたうつむいてしまった。ビンゴなんだ・・・。

「優ちゃんが朝走ってる姿を見るとね、それだけでうれしかった。表情までは見えないけど、すごく集中して、それがスタートの合図ではじけるように走り出すの。ゴールまでぐんぐんスピードを上げていく。走り方で、今日は調子がいいのかどうかも分かるくらい」

 そこまで菜穂が言って、私は気づいた。そういえば・・・。

「だから、この間優斗が休んだ日の朝、落ち着かない様子だったんだね」