「菜穂ってさ、もうすぐ受験するの?」

「うん、ま、一応ね。ほんとは4月になってみんなとそのまま上にあがっちゃえばいいんだけど、親が受けるだけ受けてみろってさ」

 開かれた教科書には菜穂らしく、いろんな色のペンで書きこみがしてある。

「私は、いまさら他のところは受験したくないな。大学まで苦労せずにいきたいもん」

「はは、私もそうだけどね。ま、記念受験ってとこだよ。ぜったいに受からないし」

 なんだか、親友が遠いところにいってしまいそうで、ふと不安になる。
 
 少しずつクラスメイトが登校してくる。眠そうな顔、朝からテンションの高い人、それぞれの声が重なり、朝の時間を満たしてゆく。私も彼らとあいさつをしたり、テレビの話をしながらチャイムが鳴り響くのを待つ。


「おはよ」

 声に振り向くと優斗が汗だくの顔をタオルで拭きながら立っていた。