「ちょっと帰る前につきあってくれる?」

 帰り支度も終わり、席から立ち上がったときに菜穂から言われた。本当はすぐにでも帰って、旅行の準備をしたいところだったが、菜穂は朝以上に眉間にしわがよっていたし、なんだか怖い気もしたので了解した。

「ついてきて」
と言いさっさと歩いてゆく菜穂は、思いつめたかのように後ろも振り返らずにさっさと歩いてゆく。

 階段を2つ登ると、そこは屋上の入り口だった。

 通常は鍵がかかっていて入れないが、『環境整備委員会』に属している菜穂はいつでも鍵を借りることができる。どうやらあらかじめ用意してあったようだ。

 久しぶりに出た屋上は、風もなく気持ちよかった。が、いかんせん寒すぎた。屋上に行くならコート着てくればよかった。

 フェンスまで歩いてゆくと、菜穂は振り返った。自然に私もそばまで寄り、立ち止まる。

 しばらく向き合う格好が続いたが、やがて菜穂は視線をそらすと話し出した。