私の返事なんて期待してなかったかのように、優斗は話を続ける。

「蹴る足がぴたっと止まったかと思うと、必ずあわてた様子で俺を抱き起こすんだ。それで力任せにギューっと抱きしめると、そのまま泣くんだよ。笑っちゃうよな、自分で痛めつけておいて『悪かったな、悪かったな』って泣くんだぜ。俺はその合図で『今日も生きられた』って思う。親父の酒臭い息に窒息しながら、親父の首を両手で絞め殺したい欲求と戦うんだよ」
 
 気がつくと優斗は泣いていた。ぼろぼろこぼれる涙をぬぐおうともせず、「な、ばかだろう」って笑う・・・。

「どうして・・・どうしてガマンしているの?」
ようやく出た声は震えていた。

「一度さ」優斗は、鼻をすすりながらそれでも顔は笑ったままで言う。
「アネキに『あいつを殺したい』って言ったら、俺をひっぱたいたんだ。一度も手を上げたことのないアネキが俺を叩いたんだ。それで泣きながら言うんだよ、『もう少しだから、私が高校を出たら働くから。それまではガマンしなきゃ。お父さんだって大変なのよ。私たちを私立にいれてくれたばっかりにお金に苦労してるんだよ。一度だって、公立に編入しろって言われたことないでしょ、それは・・・きっと、私たちを愛してくれているからなのよ』って泣くんだ」