「親父は、いつ頃からか家で気に入らないことがあると大声で怒鳴るようになった。それだけなら良かったんだ。ここ数年は、平気でお袋を平手打ちしたり、ひどい時は俺やアネキにまで酔っ払っては手をだすようになったんだ」

 優斗の言い方は、まるで他人の物語を話しているかのように感情のない淡々としたものだった。それが逆に現状のひどさを伝えているようだ。

「酒も飲むし、浮気も何度もしている。あんな親父のどこがいいんだかしらねぇけどな」
そう言って笑う優斗の顔を、私は、見られない。

「俺は親父を憎んでる。あいつさえいなければ毎日がもっと楽しいのに、っていつも思う。あいつが帰ってくると、部屋の空気が汚れるんだよ、それが分かるんだよ。酒臭い息に侵されながら、『今日は機嫌がいいのかな』『お袋が何か余計なこと言わないといいのにな』とか思う。そんな願いもむなしく、ちょっとしたことで殴られるんだ。ひどいときなんか、腹を何度も何度も蹴られるんだよ。でもさ、しばらく蹴り続けた後どうなると思う?」

 喉の奥に詰め物でもされたみたいに、声は出てこなかった。首をぶるんぶるん振って、分からないことを伝えるのが精一杯だった。