風が吹いて、伸びた髪が顔に掛かってくすぐったかった。
『…夏海?』
『あ、うん…』
なんかどうしようもなく、眩しかった。
もう私達は、小さな子供ではないんだと、ふと強く思った。
そんな考えを払うようにただ目の前の海を見つめた。
『…綺麗』
思わず呟いてしまう、美しい光景。
何年経っても変わらないと思ったし、そしてそれは当たっている。
『次にこの海を見るのは…いつになるのかな』
さっきまではなかった寂しさが込み上げてきて、思わず唇を噛み締めた。
そんな私をちらりと見ると碧は『…好きだよ』と言った。
ぽつりと。
――なんてことない、小さなことを呟くかのように。
"好きだよ"
そう言った。
それが自然に聞こえたのは、それがあまりに長い時間を掛けて抱え続けられてきたものだったからだと気付いた。