夏が終わったら、お父さんの転勤で東京に行く。
その話を聞かされたのはつい昨日のことだった。
だけど私はそれを碧に言い出すこともなく、
いつも通りに勉強の邪魔をしに来た。
『…なぁ』
『うん?』
『東京、行くんだってな』
私はベッドに腰掛けて、勉強机に向かっている碧の背中を見つめていた。
制服を着たままの、白いシャツに包まれた綺麗な体。
だけどその肩は少しがっしりしていて、私はなんだか時間の流れを感じた。
『…うん』
『いつ、聞いた?』
『昨日。…碧は?』
『俺はついさっき』
ぎこちない雰囲気だけど、碧は私を振り向こうとはしなかった。
互いの存在を求めて、声だけが交差し合う。