無視するわけにもゆかず、私は仕方なく「…何」と答えた。
潮の匂いがした。
ココロの隙間が、凍みるように傷んだ。
「今ならお兄ちゃん、帰ってきてくれるかもしれない。なんてことは思わないの?」
「…なんで、私が?それに…もう結婚するんだよ」
「まだしてないじゃない」
どっちが姉でどっちが妹か分からない、逆転体勢。
だけど不思議と、その強気な口調が思った程嫌ではなかった。
「お姉ちゃんだって、それを期待してたんじゃないの?」
「…!そんなこと…」
「じゃあ…」
じゃあ。
「…なんで、お姉ちゃんは泣いてるの?」
香奈の言葉に、頬に手を遣った。
温かい液体の感触。
自然と目から零れていた一筋の涙に、私は素直に戸惑った。
―――なんで、泣くの?
…なんで…?