「はい。あたしの勝ちー」
「…」
可愛いけど、ちょっと可愛くない。
やれやれとため息をつく私に、「でもどうする気なのよ?」と香奈はつつくように言った。
「場所が分からないなら、誰かに迎えに来てもらわないと。その誰かって、碧兄ちゃん以外にいないでしょ」
「碧はダメ」
8年ぶりの会話が、「道に迷った」だなんて間抜けすぎる。
…それに、今はなんだか、もう少しだけ遠回りしたい。
もう少しだけとどまっていたい。
「お姉ちゃんに任せなさい」
不信の目を向ける妹をよそに、私は少し歩いて道路に出ると手を上げた。
しばらくしてから、走ってきたタクシーが静かに私の前で止まった。
「乗るよ」
香奈が後部座席に乗り込み、私は助手席に腰を下ろす。
「どちらまで?」
そう聞いてきた、人の好さそうな運転手のおじさんにこう言った。
「海の絶景スポットに、連れていってもらえます?…この辺り、よく知らないもので」