この街を去る前に、どうしても寄っておきたい場所があった。
人はいつか必ず故郷に帰ると言うけれど。
私はその「いつか」をあっという間に通り過ぎた。
短すぎるぐらいの一瞬だったかもしれない。
それでも最高のタイミングで、最高の瞬間だったと思っている。
もうここには戻らない。
そんな確信のもとで、最後に目に焼き付けておきたい景色があった。
「なっちゃんの名前の"夏海"ってさ…」
「うん、ここから付いた。…あれ?言わなかったっけ?」
「知らなかったなぁ。そうじゃないかとは思ってたけど」
そうか。
そういえば碧と香奈にしか言わなかった。