家に来た時は気付かなかった。
一台のポルシェが車庫に収まっていたこと。
…いつの間に車の免許なんて取ったんだろう。
まぁそりゃ、取るだろうけど。
私が知らない間にも、確実に碧には碧の時間が流れていて
碧が知らない間にも、確実に私には私の時間が流れている。
そんな当たり前なことが、ちょっと切ないことに気付いた。
「…おい。それは何の冗談?」
「えっ?」
「なんで後部座席に乗ってんの」
「だって普通は後部座席じゃ…」
碧は首を軽く振った。
なんだか諦めたような、気の抜け方だった。
「お前な……鈍さにも程がある。…いつもそんなことしてんのか…」
「え?…えっ?」
なんのことか、はっきり言ってもらわなくちゃ分からない。
首を傾げっ放しの私に、碧は「もーいいよ、そのままで」と、しまいには笑い始めた。