「やっぱり……」
「ん?」
「那智の瞳の底には、キレイな風景がいっぱい詰まってるんだね」
「お前、まだそんなこと言うてるんか」
プッと笑う那智の横顔。
あきれたような表情には、だけど優しさがにじんでいる。
あたしは絵が完成したことの興奮も手伝って、少しムキになって言い返した。
「だって、本当にすごいんだもん。あたしは絵とか描けないしさ。
芸術で表現できる人って、尊敬するっていうか――」
「“表現”……とは、ちょっと違うな」
「え?」
「俺が絵を描くんは、別に何かを表現したいわけちゃうねん」
那智は人差し指の爪で、キャンバスの横を軽くひっかいた。