その日からあたしは毎晩、
おばさんの目を盗んで那智の部屋に通った。
白紙だったキャンバスは、夜を重ねるごとに生まれ変わっていった。
那智が描く世界。
その中で生きるあたし。
現実のあたしなんかより、何倍も、何百倍も美しく見えた。
そして――
「完成、だね」
7日目の夜。
ついに、その絵は完成した。
「すごい……」
キャンバスの前で、あたしは恍惚とため息をもらした。
体温や息づかいさえ感じられそうなほど、鮮やかに命を吹き込まれた“あたし”。
けれどどこか歪な、不完全さを感じさせるタッチ。
その不調和が逆に、強烈な魅力をこの絵に与えていた。
「まずまずの出来やな」
那智はそんな風に言いつつも、横顔は満足そう。
イスに座ったまま「ん~」と伸びをする彼の横で、あたしは絵に見惚れながら、つぶやいた。