さらさらと線を描く音だけが、部屋に響く。
密閉されたふたりだけの空間。
那智は時々あたしに指示を与えながら、淡々とキャンバスに向かい続けた。
那智の視線がこちらを向くたびに、あたしは小さく身ぶるいした。
なんだろう……この感覚。
まるで縛られたように、あの瞳の前で、あたしはすべての自由をなくして
呼吸すら、自分の意思でできないほどで……
「藍。ちゃんとこっち見ろ」
「ん……」
那智の指示に従うあたしの唇から、熱い息がもれた。
あたしの中で渦巻く小さな炎を
きっと那智は見抜いてる。
指一本 触れられなくても
生まれるこの快感を
きっと那智は、見透かしている。