ほんの数秒。優しく押し当てられただけの唇。


何度も頭の中で描いてきた行為は、案外あっけなくて。


だけど初めてのその感触は、離れてからもあたしの唇に残った。



「……」



ファーストキス。

しちゃったぁ……那智と。


頬の内側が、燃えたように熱くなっている。

あたしはフワフワした気分のまま、那智を見上げた。

すると。



「お前のその顔、やばいな」


「え?」


「アカンわ。ガマンできへん」



えぇっ?


突然の発言に驚いたあたしは、逃げるように体を離す。

その勢いで椅子ごと後ろにひっくり返りそうになり、すかさず手を伸ばした那智によって、再び彼の方へと引き寄せられた。



「な、那智……っ」


「藍。俺」



待って。待って、待って――




「お前の絵、描きたい」



…………はい?