たしかにあたしはあの後、2時間ほど那智の部屋にいたんだ。
でも本当に小さな声で話していたから、普通は聞こえるはずがないのに。
そう、たとえばドアの前に立って、じっくり耳をすましたりしない限りは。
『藍ちゃん。変なこと聞くけど、あんたたち――』
おばさんの話の途中で、あたしは顔もふかずに洗面所を出た。
「……あのババァ」
教室の机に突っ伏して、つぶれた声で吐き捨てる。
あのせいで1・2時間目の授業は、全然集中できなかった。
「桃崎さん。次、体育だよ~」
ハイテンションで声をかけてきたのは、同じクラスの亜美。
以前、那智のことで話しかけてきた女子だ。
あれ以来、亜美はやたらあたしに絡んでくる。