「じゃあ…また描いてくれる?」
その瞳に、もっとあたしを映してほしい……。
「今度は、あたしのこと見ながら描いて」
「あぁ、ええよ」
耳元でささやかれた声は、まるで特別な契約のようで。
あたしは幸福と同時に、ふいに悲しくなった。
リビングの棚に隠された、婚姻届。
あんな紙切れ一枚の方が
あたしと那智を結ぶものより
ずっとずっと強いんだ。
どんなに強くあたしたちが想い合っても、かなわないんだ。
「藍? どないした」
「……ううん」
――このまま
那智が描く世界の中だけで
生きていられたら。
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