「――那智くんっ? どうしたの?」
急に静かになって心配したのか、ドア越しにまた声が聞こえた。
「うざ」
那智は一言つぶやいて、傷から唇を離す。
そしてそのとたん、足の力が抜けてへたりこんだあたしを、両手でキャッチするのも忘れなかった。
床には画材が散乱し、ひどい有様。
昼休憩終了のチャイムが、遠くで鳴り響いている。
「那智……あたし」
ん? と聞いてくれる声が優しくて、また泣きそうになった。
「あたし……那智に、他の女の子の絵を描いてほしくない」
「……」
「他の子を見てほしくない。
他の子に触られてほしくない。
こんなのあたしのワガママって、わかってるけど……」
「……」
「もうすぐ、姉弟になっちゃうけど……」