「お前の体に傷つけるとか、ホンマあの男、殺しても足らんな」 いや、違う、熊野くんのせいで転んだんじゃないってば。 そう反論したくても、あたしの口から出るのは不規則な息遣いだけだ。 「俺の藍やのに」 ……わかっているなら、お願い。 那智も、あたしだけのモノになってよ。 「那智……」 膝の高さにある黒髪に手を伸ばす。 前髪に触れると、那智は傷口に唇を当てたまま、目線だけこちらを見上げた。 瞬間、あたしの口内になぜか 昨夜の那智の血の味が、よみがえった気がした。