そのとき。


不気味なくらい無表情だった那智の顔に、驚きの色が浮かんだ。


そしてその顔は、あたしの方を向いていて。



「……藍?」



那智に言われるまで、自分でも気づかなかった。



「お前、泣いとんか?」


「えっ……?」



驚いて自分の頬に触れる。


はっきりと伝わる濡れた感触。

さらに指先に落ちてくる、新しい雫。



「……」


「おい」


「違う…っ、泣いてな……っ」



首をふるあたしの方へ、怖い顔で那智が歩いてきた。


逃げなきゃ、ととっさに思った。


今、涙の理由を聞かれても

答えられるわけがない――



「……やっ…」



だけど走り去ろうとしたあたしの腕は、素早く那智に捕らえられて。


有無をいわさぬ強引さで、準備室の中へと連れ込まれた。