「那智、ダメっ」
ひざの痛みも忘れてあたしは立ち上がった。
ドアの向こうの美術室。
ゴミを捨てるような仕草で那智が手を離すと、床に打ちつけられる熊野くんの体。
ゾッとした。
この展開に、じゃない。
あまりにも冷淡な、那智の横顔に。
微塵の怒りも浮かばない、
血すら通っていないような冷たい顔で
熊野くんの頭めがけて右足を振り降ろそうとする那智に。
「や――」
「やめて!」
あたしより早く、あの女子が叫んだ。
声に反応して、那智の右足が寸でのところで静止する。
「那智くん、ダメだよ! そんなことしたらっ」