聞き逃さなかった。
女子の声の間に、たしかに聞こえた那智の相づち。
そして、次の言葉が
あたしに追い打ちをかけた。
「あたし、那智くんの絵のモデルになりたいなぁ」
ガターン、と激しい音が準備室に響き、右足のひざに痛みが走る。
バランスを崩して台から落ちてしまったのだと、自覚するまで数秒かかった。
「桃崎さんっ、大丈夫!?」
熊野くんがあたしの体を抱き起こそうとする。
それとほぼ同時に、美術室とつながるドアが勢いよく開いた。
物音を聞いて驚いたのだろう、顔色を変えた女子がそこにいて。
その後ろには、冷めた表情の那智の姿があった。