「弟さんと同じクラスの、相賀メグっていう子なんだけどさ。
彼女も弟さんの絵のファンらしくて。
普段は描く方の専門なのに、彼になら自分をモデルに描いてもらいたいとか言いだして……」
熊野くんはそこで言葉を切った。
「桃崎さん?」
無意識に爪をかんでいたあたしは、ハッと顔を上げる。
「あ、ごめん。ボーッとしちゃってた」
「あははっ。桃崎さんってたまにボーッとしてるよね」
……“たまに”がわかるほど、この人と接したことあったっけ?
と思いつつ、あたしは作り笑顔を返す。
「じゃあ俺、美術室に用があるから行くね」
「うん」
両手いっぱいの画材を抱えたまま、熊野くんが歩き出した。