それはきっと、あたしたちが出逢った日の夜だ。
満月の下、初めて那智に絵を描いてもらったときの……。
「しばらく木のかげに隠れて、ふたりの様子を見ていた。
そのとき藍さんが、那智にこう言ったんだよ。
“人間の瞳の底には、キレイな景色が詰まってる”って。
僕は涙が止まらなくなった。
憎しみに支配されて自殺までしようとしていた自分が、心から恥ずかしくなった。
愛する息子の瞳に、そんな悲しい光景を残してはいけないと気づいたんだ」
おじさんは軽く鼻をすすって
少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「だから、今の僕がいるのは、藍さんがいたからです。
せめてもの恩返しを、これからさせてほしい」