そこに立っている人を見たときの、あたしの驚きといったら。
目がおかしくなったのかと、一瞬本気で思ったほどだ。
あたしがその人に会うのは3回目。
前の2回は、バイト先の書店で。
――『本を探してるんだけど、タイトルがわからないんです』
そう言って声をかけてきた、あのおじさんだった。
そして、次に那智がつぶやいた言葉で、あたしの驚きは最高潮に達した。
「……親父……」
口をパクパクさせるあたしに、おじさんが穏やかに微笑んだ。
「こんにちは、藍さん。
那智の父の、亮司です」
あのおじさんの正体は、なんと那智の実のお父さんだった。
「離婚後、僕は故郷の関東に戻って会社を始めたんです。
那智のことは、ひとり息子だからずっと気にかかっていたんだ」