那智の声を聞いた気がした。
那智の光を見た気がした。
でもそれは、極限状態のあたしが無意識に作り出した幻だったんだろう。
だとしても別に不思議じゃない。
何もかもを失うかと思ったとき
あたしが心に描いた人は、那智だったから。
「藍」
斗馬くんがあたしの手を握る。
「もう二度と、こんな心配させんなよ」
「……うん。迷惑ばかりかけて、本当にごめんなさい」
「マジで悪いと思ってる?」
「うん」
「じゃあ……、俺のところに戻ってきてくれよ」
手を握る彼の力が強くなった。
あたしは少し体を起こし、しっかりと彼を見つめた。
「ごめん、斗馬くん……。それはできない」
「……」