目に飛び込んだのは、

思いがけない光景だった。



激しい雨の中。

存在を主張するように鳴り続け、チカチカと点滅する携帯。


それは、あたしが立っている場所より、数メートルも下に落ちていた。


足元を見る。

すぐ横は――ガケ。


人が歩けるような斜面じゃない、短い草に覆われたガケ。



音は、その下から響いている。




「……那…智?」



なぜ、あれが那智の携帯だと思ったのかは、わからない。


だけどあたしは真っ白な頭でつぶやいた。



「那智……?」



嘘、でしょう?




――『逆側の山道は

地盤がゆるんで危険やから』




ねぇ、嘘でしょう?