那智の表情は、さっきまでとはガラリと変わって冷たかった。
「え……そう、だけど」
それがどうかした?
あたしは戸惑いながら、那智の顔色をうかがう。
なんでそんな、怖い顔して……。
「お前、アホやろ。そいつは俺をダシにして、お前に近づこうっちゅー魂胆や」
「は? 何が?」
「でなきゃいちいちお前に相談せぇへんわ」
「……っ」
そんなわけないじゃない。
いや、もし仮に、百歩譲ってそうだとしても。
那智に怒られなきゃいけない理由は、あたしにはないはずだ。
そして、怒られる“権利”も、ないはずなのに。
「痛っ」
立ち上がった那智が、あたしの二の腕をつかんで引きあげた。