斗馬くんは笑顔を作って、パッと立ち上がる。



「メシ食ってねぇだろ?
何か買ってくるよ」



あたしが「いいよ」と言う前に、部屋を出て行く斗馬くん。



ひとりになったリビングに、カーテンごしの太陽の光が、波模様を描いている。



それをぼんやりと見つめながら、海を思い出した。


斗馬くんと夏休みを過ごした海じゃなく

那智と初めて会った、あの島の海。





「……会いたい……」




つぶやきは、無意識にもれた。




会いたいよ……那智。


もう会えないのに

こんなにも那智が恋しい。




子どもの頃に戻って

もう一度、初めから

那智に出逢いたいよ――…





あたしはふらりと立ち上がり、

そばにあったバッグを持って、アパートを出た。