……まるで
淡い夢のような日々だった。
彼が残してくれたあたしの絵。
あれがなければ、あたしは那智という人が存在したことすら、信じられなくなっていたかもしれない。
那智は結局、最後まで絵を完成させずに出て行った。
未完成で置き去られたそれは
なんだかあたしたちの恋、そのものに見えた。
「桃崎さん! さっさと新刊並べてちょうだい!」
副店長からの風当たりは、あいかわらず厳しい。
1週間以上も無断欠勤したあげく、いきなり
「今月末で辞めさせてください」
なんて言い出したあたしが悪いのだけど。
那智がいなくなって半月。
あたしの時間は、流れている。