「藍」
ふわっ…とバスタオルを頭上からかけられた。
「部屋、行かんのか?」
「……」
無反応のあたしの前に那智がしゃがみ、濡れた髪をふいてくれる。
うつろな視線を上げると
見慣れた、でもなつかしい顔が、そこにあった。
「那智も……濡れてるよ」
あたしはバスタオルのはしを持って、彼の髪の水滴をぬぐった。
ひとつのタオルを一緒にかぶると
まるでそこは、ふたりだけの小さな世界のようで
それはあたしたちが
かつて願ったものに似ていた。
どちらからともなく、そっと顔を近づけていった。
雨で濡れた肌は冷たく
唇だけが温かかった。
あたしの頬を、涙が一筋伝った。