力任せに引っぱられた那智が、わずかによろける。


斗馬くんは間に割り込むようにして、あたしの前に立った。



「斗馬く……」


「――藍が」



聞いたこともない低い声に、あたしは慄いた。



「藍が誰を選ぶとしても、止める権利なんかねぇって思う。

俺以上に幸せにしてくれる男なんだったら。

でも……こいつはダメだ」




何かが変だった。


斗馬くんは那智のことをよく知らないはず。


なのに“こいつはダメ”という言い方は、彼らしくない。



よく見ると斗馬くんの息は切れていて、ここまで走ってきたのが分かった。



お見舞いのために来たというよりは……

あたしから那智を引き離すために、駆けつけたような。