「那智っ……!!」



飛び起きた瞬間、強烈な目まいが襲った。


だけどあたしは無我夢中で足音を追いかけた。


靴のかかとを踏んだまま玄関を飛び出すと

アパートの階段の下に、見覚えのある細い背中が見えた。



朝日を浴びて輝く、黒い髪。



「那智っ……」



ふり返ったその顔は、驚きに強張っていた。


アイ、と唇が動くのが見える。



追いかけちゃいけない。

追いかけちゃいけない。


でも――


わかっていても

体が勝手に動いた。



「那智っ!!」



階段を駆け下りる。


病み上がりの足に力が入らない。


前のめりになった体が段差を踏み外し、あと数段を残して落下した。


受けとめてくれたのは

あの温かい腕だった。