「“瞳の底の風景”……やったっけ?」
ふいに、那智が視線を絵に落としてつぶやいた。
「え?」
「ほら、これ描いたとき、お前何か変なこと言うてたやん」
「……あぁ、うん。よく覚えてんね」
あんな幼い戯言を、那智が覚えていたなんて意外だ。
――『知ってる? 人間の目ってね、それまでに見たモノを、蓄えることができるんだって』
あの夏の夜。
初めて那智に絵を描いてもらったあたしは、スケッチブックの中の自分をうっとりと見つめ、そう言った。
『何やねん、それ』
『こないだ図書館で読んだ小説に、そう書いてたの。
キレイな物とか風景を見たら、それを瞳の底に残しておくことができるんだって』
アホくさ、と那智が笑った。