「何だ、この女ぁ!」



那智に手を伸ばそうとしたところを、横から乱暴な腕が阻止する。


反動で跳ね飛ばされるあたし。





「――…藍っ!!」





地面に体を打ちつけながら

あたしはたしかに聞いたんだ。



たった2文字の

だけど、あまりになつかしく

奇跡のような、その声。



“藍”


那智があたしを呼ぶ声。





「……ッ」


倒れたあたしの前髪を、ひとりの男が荒々しくつかんだ。


男のむこうで、那智が立ち上がろうとするのが見える。



「ジャマすんじゃねぇ。
誰だよ、お前」




――『誰だよ』



あたしは、那智の

那智の――……




「俺の彼女っすよ」